昨日のつづきはまだ終わらない明日(『光の祭典』終演と『カンフル』とここ3ヶ月)
わたしがブログを更新しないのは、ブログを一編の小説だと思っているからだ。
あなたがすぐに写真を撮ることをわたしがいつも嫌がるのがギブスのように。
ここ数ヶ月のわたしは大きすぎる変化の波のまっただなかで、すべてが現在進行形でピリオドを打つタイミングを見つけられていない。
まず、6月3日に舞台『光の祭典』アイホール公演が終演した。良い作品になったと思う。それは、まだ25歳のわたしを受け入れてくださった劇場やスタッフ、観客の皆様のおかげだと思っています。本当にありがとうございました。
「震災と暴力」をテーマにしたこの作品は24歳の時に書いたものなのだが、再演を通して、初演の時は無自覚だったその題材の「重さ」に向き合った日々だった。
無自覚と書いたが、それはテーマへの配慮がないままにこの作品を書いたということではない。初演の時は、これらのテーマがわたしの心や生活と密接に絡みあっていた。初演の『光の祭典』はわたしの人生だった。さながら吐き出された繭のような演劇だったに違いないと思う。
そこからたった一年で、わたしは別人になった。だからこそ、「喪失と復活」という新しい視点から、この作品と向き合った。
初日の前日、5月31日にこんなことを書いていた。
書き割り、という言葉があります。
舞台や映画の背景のことです。板や布に描かれた背景。
わたしはずっとこう考えていました。
書き割りなどなってたまるか。
わたしの人生だ。
1秒たりとも誰かの背景になんてなるものか。
だから
「書き割り」
「え?」
「みんなが滝内さんのこと、書き割りの滝内って」
「え…?書き割りって背景のこと?背景つくるのは美術さんでしょ…?……なんかみんなよくわからないあだ名つけたがるよね…」
と、いう台詞を書きました。
けれど、今なら思います。
誰も誰かの書き割りにならないし。
誰も誰かの書き割りになんてなれない。
これは出演者一人一人の顔を思い浮かべながら書いた言葉だった。はっきりと覚えている。大変な作品に出てくれた全員が、出演時間に関わらず、一人一人美しくあればいいと思ってしていた稽古だった。そして実際、役の大小に関わらず、ハッと目を引く瞬間があったように思う。
ブログの下書きには、こんな文章もあった。千秋楽の日の朝に記したものだ。
朝と夜のはざまに、アクアリウムの水音で目が覚めて、2年前もこうして物語を書いていたことを思い出す。息をするのに必死だった。あの時、死なないで本当に良かった。あの時、人を信じて本当に良かった。
嘘ばかりに見える、たった一瞬、観客の前に姿を現す、演劇という夢には、本当のこともある。
海の見えるわたしの家の玄関には1メーターほどの水槽があって、かつてはアロワナが泳いでいたそこには、今はなぜか金魚が入っている。
2年前、夜更けに目が覚めると、ぼんやりとその金魚をながめていた。名前のない金魚。しばらくすると空が白んで、漁船の霧笛が聞こえる。波音と水音だけが響く、静かな箱庭。
わたしの人生の一部だった『光の祭典』が、一つの物語へと移り変わって行ったことへの喜びがあふれていた。
終演後、高校生の頃から憧れていた演劇雑誌『テアトロ』に劇評も掲載された。腰が抜けた。(取り上げてくださった九鬼葉子先生、ありがとうございます。)
そして、こまばアゴラ劇場での東京公演が決まった。
劇場から採択の通知をいただいた時、ようやくだ、と嬉し泣きしてしまった。この物語を東京の皆さんへお届けできる。恐ろしいと思いながらも、ずっと望んでいたことだった。奮い起つような気持ちだ。限界まで挑戦を重ねたい。約2年ぶりの東京公演です。どうぞよろしくお願いします。
それから、舞台『カンフル』の公演も無事終演した。
震えるぐらいに幸せな作品だった。素晴らしい役者とスタッフに助けられた。演劇をつくることの幸福さを教えてもらえた現場だった。毎日がわたしの知らない世界を知るためにあるのだと思ったぐらいだった。あの時、あの日感じたことを、もっと書きたいのだけれど、この気持ちは新作になるんじゃないかと思っている。確信、している。だから、まだここでは書かない。でも本当に、かけがえのない日々だった。
関わってくださった全ての方に感謝したい。
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そして先日、まったく新しい初めてのお仕事を、狩野さんとさせてもらった。
今日は2人でお仕事だったのですが
— 狩野 陽香 (@kariharu_o) September 28, 2018
初めての経験をしました
終わって久しぶりにお酒にもありつけて…
楽しかったです!
私もがんばる!2人でもがんばる!
これからも少女都市をよろしくお願いします。って気持ちです pic.twitter.com/QrUOg6RIqU
狩野さんとは6月に仕事で新潟にも行き、その時も感じたのだが、こうして稽古場とは全然違う現場に2人で居ると、主宰と劇団員、演出家と女優という立場から解放されたような感覚になる。いつもと違う2人になって、ちょっと不安定で、新鮮だ。それから、知らなかった相手の一面も知れる。
いろんな「はじめて」が、少女都市でよかったな
— 狩野 陽香 (@kariharu_o) September 28, 2018
わたしも。もっと2人で仕事をしたいと思った。
させていただいたお仕事は、驚くような内容だ。きっとびっくりすると思う。楽しみにしていてほしい。
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ここ数ヶ月で起こった、ブログにかけることはこれぐらいだ。
本当はもっと色々な人との出会いがあって、わたしの生活は大きく変わった。
わくわくが止まらない。
もっと作品を作りたい、もっと仕事がしたい。
もっと人間を愛して、もっと信じたい。
これからもわたしは、君を、君が想像もしなかった場所まで連れてゆく。
これは絶対、約束だ。
2018.9.30
よしもとみおり
@yoshimoto_miori