にんげんはかんがえる葭である

よしもとみおりのブログ

わたしのことを語ること(『いみいみ』と『おいてきぼりの桜の園』)

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ここ数か月でわたしは「わたしのこと」を語ることがめっきりへたくそになった。語らなくていいと言われたからでもある。あれはわたしにとってエポックメーキングな出来事だった。そっか、語らなくていいんだ。と腑に落ちて、語るのを辞めて。今も「辞めること」を続けているのは、結局わたしが語ることをしたくなかったからなんだと思う。したくないのにしなきゃいけないと思い込んでたからつらかったんだなとも思う。

むかしは自分のことを語る代わりに演劇をつくっていた。ひとに言えない悩み事ことが多くて、言ったら自分が崩れてしまいそうで、でも言わなくても崩れてしまいそうだったから、おもしろおかしく脚色して演劇にしていた。

つくった物語が自分から離れたものになればなるほど、自信がついた。

つくった物語が自分に密着したものであればあるほど、心が揺らいだ。

 

いま、二つの作品を掛け持ちしている。

うさぎの喘ギ『いみいみ』(一人芝居)と、gekidanU『おいてきぼりの桜の園』(脚本演出)だ。

このふたつの作品はどっちだろうと考えると、たぶん『いみいみ』はわたしから離れていて、『おいてきぼりの桜の園』はわたしと近い。ただおもしろいのは、この離れている/近い、という表現は「心的」なものであって、設定的にわたし自身に近いのは『いみいみ』で、遠いのは『おいてきぼりの桜の園』だ。

『いみいみ』は、大阪の駅ナカのコンビニで働く非正規雇用の女の子が彼氏とのセックスを断れないシーンから始まる。(今回はダブルキャストなので、中筋さんのバージョンはわからないが、少なくとも葭本バージョンはそういう創り方をしている)

『おいてきぼりの桜の園』は、南千住にポツンと建ったあばら家に美女が住んでいる。その美女のところに、常磐線に乗ってやってきたと言う少女とも呼べない子どもが転がり込んでくる。そんなシーンから始まる。

前者はどこにでもある街の風景の一つで、後者は劇的なプロローグだ。

それでも『いみいみ』のほうが心的に遠くて、『おいてきぼりの桜の園』のほうが心的に近いのは、(もちろん脚本をわたしが書いていないかいるかの違いは大きいのだが)『いみいみ』のヒロインはかつてのわたしであって、『おいてきぼりの桜の園』のヒロインは現在進行形のわたしであるからだと思う。

ただ最初からそうだったのかというと、そうではなくて、『いみいみ』のお稽古がはじまってすぐはわたしと『いみいみ』のヒロインの距離はとても近かった。近すぎて、演じるのが嫌だなあと思っていた。だけど稽古を積み重ねていく中で、だんだんと『いみいみ』のヒロインの成長が、わたし自身の成長の手助けとなって、わたしの内面を変えた。だから、『いみいみ』のヒロインとわたしは遠くなった。

演じると言うことは不思議で、自分一人ではとても時間のかかりそうな変化を、疑似的に猛スピードで味合わせてくれる。一人の人間の変化の過程を何度もたどることで、わたし自身にも変化をくれる。

その変化の結果生まれたのが『おいてきぼりの桜の園』だ。わたしの中に生まれたばかりの変化を描いているから、羽化したばかりの蝶のようにふやふやな手触りの作品だ。キャラクターが、すでにわかりきった行程をたどるのではなく、今生まれたばかりの行程を踏みしめながら、前へ進んで行く物語なので、演じる俳優の内面を創ってゆくことはたいへんなことだと思う。だけど柔らかな形を保ったまま、ソリッドな印象へ変えてゆくためにあと1か月半稽古があるのだと思う。励みたいと思う。頭の中に在る景色をひとつひとつ顕在化してゆくために。もうすぐ無くなってしまう南千住のアトリエのために。

 

長くなってしまったけれど、うさぎの喘ギ『いみいみ』(一人芝居)と、gekidanU『おいてきぼりの桜の園』(脚本演出)、どちらもよろしくお願いいたします。

そして関西の皆さん!ぜひうさぎの喘ギ『いみいみ』にお越しいただけますと、わたしが泣いて喜びます。

 

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一人芝居『いみいみ』

2021年10月 28日(木) 19:30

29日(金) 15:00

30日(土) 12:00/18:00

31日(日) 15:00

11月1日(月) 19:30

チケット1500円 

当日清算 うさぎの喘ギ 第1回ビルドアップ公演 in兵庫 - パスマーケット

事前精算 第1回ビルドアップ公演 予約フォーム

会場 collé cave

JR芦屋駅より徒歩5分

兵庫県芦屋市船戸町10-19 光ビル 地下1階

 

ではまた、劇場でお会いしましょう。

 

よしもとみおり@shoujo_toshi