渋谷・金曜日、佐々木ののかへのラブレター
渋谷・金曜日。
お友達の佐々木ののかさんとお茶をした。
ののかさんの撮るわたしはいつも可愛くて、わたしはののかさんに撮られるたびにちょっと良い気持ちになる。
ののかさんは文章の印象と実際に会った時の印象がどことなく違う。
しかし違うのは実は表面を取り巻くやわらかな空気だけだ。
しばらく話すと、彼女の文面にこびりついて拭えないガラス片のような鋭さが、確かに内面に在ることを、わたしは毎回発見する。
そして相反するとされるものが、一つの体におさまっていることにいたく感じ入る。
賢く美しく優しく、刃物のような女性。
「この短いあいだにすごく変わったね」
そう喫茶店で言われたとき、わたしは嬉しくて、思わずカフェオレをいきおいよくすすった。
『誕生日がこない』
『永浜』
『向井坂良い子と長い呪いの歌』
『光の祭典』
この4作品が、ののかさんが観てくれたわたしの演劇だ。
そしてこれらすべての作品にアフタートークゲストとして来てくださった。
「最初の未織さんは、わたし刺されるのかなってぐらい尖ってたよ」
と、告げられて、思わず赤面した。
2018年12月から2019年8月にかけて、走り抜けるように4つの公演を重ねた。
その結果、わたしは変容した。たった9ヶ月前のことだが、一連の作品群を上演する前のわたしと、今のわたしは、まったくの別物だ。
わたしは変わった。演出としても、女優としても、人間としても、興行者としても。
たぶんきっと、作家としても。
それを証明するのは新作のほかにおいて無いので、いま、ラフスケッチを続けている。
もらったばかりの新しいノートに、今日気がついたことをしたためている。
もっともっと変わってゆきたい。より良い方向へ。
まだ見ぬ表現へ。自分も知らない自分へ。
次の公演はいつかは決めていない。
だけど、次の公演にもののかさんが来てくれると良いと思っている。
ののかさんの言葉は、わたしの作品を的確に表現してくれる。
たぶん、ワンセットなのだ。
葭本未織の演劇と、佐々木ののかの言葉は。
そう思える作家に出会えたこと、わたしはとても幸せに思う。
突然会いたいと言ったわたしに時間をつくってくれたののかさんは、とりとめもない話をうんうんと聞いてくれた。
わたしはこの数ヶ月の楽しかったことと、少しへこんだことを語った。
ののかさんは、いい話だなあと笑いながら聞いてくれた。
大丈夫、何にも失ってないよ、と。
「一つ一つをおぼえておいて。きっと未織さん忘れちゃうから。それからちゃんと教えてね。」
という言葉を、200円のお駄賃と一緒に東急の入り口近くで貰った帰りがけ。
バイバイと手を振ったあと、わたしは跳ねた。
渋谷はなんて美しい。騒がしくって人が多くて、電光掲示板は目に痛い。だけど世界に一つだけの、素晴らしい街だ。
今しばらくの東京との別れ。
最後の金曜日にふさわしい夜だった。