にんげんはかんがえる葭である

よしもとみおりのブログ

オーディションのチケットノルマと公演参加費3万円をやめます

 

1ヶ月前、オーディションの告知を出させていただきました。

 

stage.corich.jp

 

この中に、

 

◆参加費 チケットノルマ
公演参加費 3万円
チケットノルマ 25枚
(スタッフは参加費なし・ノルマ10枚)

 

という記述がありましたが、

下記に改めさせていただきます。

 

◆参加費 チケットノルマ
なし

チケットバック有

チケットの販売にご協力ください。

 

現在ご応募いただいている皆様も、同様の条件にさせていただきます。

追ってご連絡させていただきます。

 

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ここからは理由になります。よければ読んでください。

 

当初、参加費とチケットノルマを有にしたのは、

私より大阪の演劇に詳しい方に、

「大阪の演劇は、役者はチケットを売らない。売れない。

 だから多くの劇団が、参加費を取り、ノルマを課す。

 取れば、参加費を払うだけの覚悟を持った人が、

 ノルマを売るだけの覚悟を持った人だけが、来る。

 だから、取ったほうがいい。」

というようなアドバイスをもらったからです。

 

その時「そうか」と決めたのは、私です。

でもそのアドバイスをもらった時から、私の気持ちは変わりました。

 

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私にとって大阪は、アウェイな土地です。

兵庫で育ち、東京に出るまで兵庫以外の劇場に立ったことのなかった私には、大阪の演劇シーンがどんな様子なのか、実は今も、あまりわかっていません。

ただ、過去2回の公演で明確になったのは、役者の「チケット」というものへの考え方が、全く違うんだなということでした。

 

東京にいた頃、役者は30枚売るのが当然でした。

30枚売って、ようやく、舞台に立つ人間としてのスタートになりました。

 

その話をすると

「大阪では30枚売る人はまれだよ」

 

と、大阪で活動する方たちによく言われます。

私よりも、大阪で活動している方たちです。

だから、「参加費とノルマを課しなさい。きっと覚悟を持った人が来るから。」というアドバイスは、的を得ているかもしれないのです。

 

でも、何故なのだろう?

どうして大阪の役者は、

たとえ報酬があったとしても、チケットを売ることに抵抗があるのだろう?

 

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きっとたくさん理由はあって、呼ぶのが恥ずかしいとか、呼ぶほどの作品じゃないとか、活動を知られたくないとか、ご案内をして断られるのが恥ずかしいとか、 そんな営業さんみたいなことしたくない、とか、色々あると思うんですけど、

 

一番は、それで成功したロールモデルが近くにいないから。ではないでしょうか。

 

私は、あくまで私は、ですが、東京で役者をしていた頃、チケットを売れば売るだけ成功する道が見えていました。

それは、東京では、インディペンデントである「小劇場」と、「商業」が、ひと続きの同じ地平にあったからです。

飲食店のチェーン店を思い浮かべてください。最初は、町の小さな定食屋から始まったお店が、店舗を増やし、全国展開していく。

 

同じように、小さな劇場から、30人のお客さんから始めて、

公演を重ねるごとにどんどん応援してくださる方が増えて、

劇場も大きく、公演の規模も大きくなっていく。

チケットを買うということは信用を取り交すということだから、

私はお客さんの信用に応えるために演技も前以上に頑張って。

そうすればもっともっと応援してくださる方が増えていく。

 

応援してくださるのは観客だけじゃない。

関わった座組のプロデューサーや作家、演出家、俳優も信用してくれる。

他のプロデューサーたちに薦めてくれる。

見に来ただけの、知らない劇団や、知らない事務所の人も応援してくれる。

何かの拍子にふと思い出して、声をかけてくれる。

応援してくださる方が増えれば、

直接的には、前よりも大きな劇場で、スターのような役をもらえたり、

巡り巡ってひょんなことから信じられないような大きなオーディションに行けたりする。

舞台だけじゃない、映画やCMだって出れる。きちんと役者として報酬をもらえる。

現にそうして、成功している先輩が、まわりにたくさんいる。

だから、何としても、チケットを、売る。

今まだ無理なことが、正しい努力をすれば、手に入る!

 

でも、私がそう思えていたのは、ロールモデルが身近にいたからでした。

だから、無鉄砲に、無邪気に、「チケットを売る意味」を信じられていたのでした。

 

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でも、きっと大阪でも、そう信じている方がいると思います。

 

うちの先輩はこうして成功したぞ!私もそれを見て頑張ってるんだ!と。

そういう方がいたら、ぜひお話したいです。

ホワイティ梅田のメルヴィルでパンケーキつつきながら話したい。

でもほんとは、オーディション会場で会えたら、嬉しいと思っています。

そういう人に、本当に会いたい。

 

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あのアドバイスは一理あるのかもしれません。

大阪では、東京に負けないぐらい多くの気概のある劇団が、生まれています。

そして多くの劇団が、大阪を出て、東京へ行く。帰ってこない。

後輩たちは、ただ、残される。

ロールモデルは「東京に行った先輩」しかいない。

だから、東京に行くまで、「チケットを売ること」に意味を見出せない。

「チケットを売ること」に信用ができない。

 

でも私がそれを受け入れたことは、そのロールモデルを肯定して、現状を再生産して、何も変わらない諦念を生み出すだけの、安易な行為だったなと思いました。

 

「兵庫から世界へ」

と、言うのが、私のモットーです。

私は、私を育ててくれたこの関西の土地を愛しているし、

きっと絶対に、かつて90年代にそうだったように、

関西だけが放つ輝きを手に入れることができると信じています。

だから、関西で演劇をやりたいと思いました。

 

そして、6月初週に、演劇をやります。

「光の祭典」という作品です。

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再演になります。

暴力と権力に踏みにじられ、自分もまた誰かを傷つけることでしか己を癒すことのできない若者たちが、それでも、なんとか、と、未来を信じ続ける話です。

阪神淡路大震災から20年後の【三宮】も、舞台として出てきます。

2歳の時に被災した私にとって、一種、モニュメント的な作品です。

そして、 #metoo の機運が高まる今だからこそ、見てほしい作品でもあります。

女も男も、若きも、老いも。

かつて自分を傷つけた存在へ、いかに向き合い、歩みだすのか。

憎しみと暴力の連鎖は打ち切れる時が来るのか。

その、始まりの一歩を描いた作品です。

 

私はもっとたくさんの人に会いたいです。

これからも関西で演劇をやりたい。

そのためにも、たくさんの人に会いたい。

もし今回一緒にやれなくても、今後、一緒にやれるように。

登って行く道筋が見えないなら、一緒に見つめられるようにするから。

信じて、きてくれると、嬉しいです。

 

応募の詳細はこちらからどうぞ。

stage.corich.jp

3/25(日) 朝の10時まで受け付けています。

オーディション参加費は会場費や印刷費として使わせていただきます。

いただいた分だけ、良かったと還せるよう、オーディションはワークショップ形式でたっぷり1時間を予定しています。私の一方的な質問や演出だけでなく、対話を通して、新しい世界を教えてくださる方にお会いしたいです。

「私なんか」と思わないでください。

これを読んでくれた、あなたが、必要です。お話しさせてください。

 

どうぞお待ちしています。

 

葭本未織