にんげんはかんがえる葭である

よしもとみおりのブログ

三度目の殺人は四度目の殺人だったのではないか

☆完全ネタバレ考察感想です!

 

見てきました、

是枝裕和最新作・『三度目の殺人

 

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あらすじ(映画.comより)
そして父になる」の是枝裕和監督と福山雅治が再タッグを組み、是枝監督のオリジナル脚本で描いた法廷心理ドラマ。
勝つことにこだわる弁護士・重盛は、殺人の前科がある男・三隅の弁護を仕方なく担当することに。
解雇された工場の社長を殺害して死体に火をつけた容疑で起訴されている三隅は犯行を自供しており、このままだと死刑は免れない。
しかし三隅の動機はいまいち釈然とせず、重盛は面会を重ねるたびに、本当に彼が殺したのか確信が持てなくなっていく。

 

以下、完全にネタバレです。
(一度しか見ていないので思い違いがあるかもしれません)

 

 

 

 

 

 

 

 

 


この話は、

30年前一度人を殺してしまった男・三隅(役所広司)が、
もう一度人を殺して、
そして司法によって死刑にされる=殺される、というお話です。

 

最後の司法によって殺されることが、

おそらく「三度目の殺人」を意味しているのですが、


この作品は、人間が人間の魂を傷つけるシーンがあまりに多くて、
「3度目どころか、4度、5度、殺人が起きてるじゃん…?!」
と思うような内容でした。

 

とくに話のキーとなってくるのが、広瀬すず演じる、殺された社長の娘なのですが、この少女は父親である社長に性的暴行を加えられているんですね。

 

(余談ですが、具体的なシーンがなく、社長の顔も劇中ほとんどスクリーンにうつらず、しかし少ない会話によって、はっきりと暴行のことを伝えるシーンは、是枝監督の暴力に対する毅然とした態度を感じさせました)

 

その虐待を「感じた」役所広司は、社長を殺すのですが、

 

gqjapan.jp

 

www.huffingtonpost.jp

 

今日入ってきたニュースを読んで、
広瀬すず演じる少女の受けた事実もまた、

魂の殺人と言えるのではないかと思いました。

 

四度目の殺人。
人間を踏みにじるということは、人間に無力感を与えるということです。
つらさ、怒り、悲しみ、憎しみ…そういったものが全部抜け落ちて、
何に反応すればいいのかわからない、

「生きていくこと」もよくわからなくなってしまう。
それでもなんとか生きて、日常を過ごすけれど。
忘れたと思った瞬間に、感情は、よみがえり、彼女を苛む。

 

 

「三隅に父親を殺してくれと頼んだのか?」と聞く弁護士(吉田鋼太郎)に
「(頼んではいない。だけど三隅さんは)感じたんだと思います…」という少女(広瀬すず)。

 

(また余談ですが、意味が分からないと思いますが、劇中でも、役所広司は人間の感情や置かれた立場や形容できない空気を「感じて」います。役所広司が「感じる」シーンはかなりの見せ場なので劇場で見て欲しいな)

 

 

劇中、福山雅治演じる弁護士が、
「あなたは裁こうとしたのではないか」と聞くシーンがあるのですが、
それをはぐらかす三隅。

 

(余談ですが、はぐらかす、という態度はすごく脚本が上手いなと思いました。ここで「じゃあ私が裁いちゃダメなんですか」と聞かない、聞かせないという選択をできるのは、視聴者の理解をリアルタイムで必要とするテレビドラマではなく、映画という「芸術」だからできることだなと思いました。)

 

 

彼は一度目の殺人で、福山雅治演じる弁護士の父親(検事だった)の温情判決で死刑をまぬがれたのですが、では、今回が免れない理由はなにか。怨恨の殺人より強盗殺人の方が刑が重くなるのはなぜか。人が人のことを裁くことに公正さは存在するのか。
人の意識は本当に「真実」を見ることはできるのか。

 

そういったことを語りかけてくる作品でした。

 

 

ラストシーン、拘置所の分厚いガラスを挟んで語り合う、殺人者と弁護士。
彼らの顔が、ガラスにうつり、ぴったりとかさなった瞬間が、
何よりもつらく、だのに美しい、荘厳な一枚の画となっていました。

 

ぜひ見てもらいたい一本です。

 

余談ですが(わたしの感想には余談が多い)

あまりに本編がつらくて、上映前の別作品で楽しそうにしている広瀬すずに思いを馳せたりしていました。

 

 

劇場でつらい気持ちになろう!

それが痛みを共有するってことだ!

 

それではまた。

 

よしもとみおり

twitter.com

 

余談

9/24(日)18:00より、

原宿でドキュメンタリー映画『ちづる』の上映会を行います。

人生初オーガナイザーです。よければ遊びに来てね!

 

おしまい。